『ヴェラ・ドレイク』という映画(DVD)を見ました。
ヴェラという中年の女性。家政婦をしている彼女は訳隔てなく優しく親切で、「黄金の心」を持っているといわれている。
でも彼女には家族にも秘密にしていることがあって…。それは「困った娘さん」を助けること。
それが明るみになったとき、彼女は?家族は?という内容。
ヴェラ役の女優さんが素晴らしい。表情の一つ一つに豊かな感情を織り込ませ、引き込まれていきます。
ここからはネタバレ内容。
私は映画の内容と関係あるようでちょっと違うことを考えていました。
ヴェラは「困った娘さんを助けるために」と石鹸水を膣内に入れて中絶させていたのです。
CMで内容にピンときて、借りたわけなんですが、見た後に思い出したことが二つ。
…もしも流産なさったり中絶したことがあって、まだ精神的に辛い人がこれを読んでいたら、ここまでにしてください。しんどい内容だと思うので。
1つはボランティアに行っていたころに出会った少女。
映画の舞台も中絶(堕胎)が禁止されているカトリックの国ですが、私の行った先もそうでした。
開放的なラテンの国でしたが、その話題だけは家族の中でも明るみにはされない。
こまった女性達は陰で語り継がれる伝統的な方法ー薬草を飲むであったり、異物を入れる、密かに売られている堕胎剤を飲む、そしてヴェラのように経験はあるけれど医学知識のない女性に処置してもらう、など安全性・確実性のない方法をとる他ありません。
少女は誰にも相談できず、聞いた事のある方法を実行しました。
それはセロリを子宮内に差し込むこと。
数日後家族が異変に気づいたとき、彼女は感染をおこし危篤状態となっていました。出血も止まらず血だらけ。
田舎町のそこは診療所といっても、薬もほとんどなく看護師が一人いるだけ。
少女は軽トラックの荷台にのせられ、隣町の病院に運ばれる途中で亡くなりました。
15歳。
妊娠させた相手はほどなくしてわかりました。
膣外性交が避妊法だと思っていたそうです、二人とも。
少女はホームステイ先の親戚の娘さんで、会ったとき教師になりたいと言っていました。
この話を職場ですると、ものがものだけに一瞬笑われることがあります。
「え、セロリで中絶ぅ!?プププ…」みたいに。
…私は笑えない。
思い出すたびに、悔しくて悔しくて涙が出る。
どんなに痛かったろう。
どんなに怖かったろう。
誰にも言えず、どんなに不安だったろう。
ひとりベッドでのた打ち回っていた時間を想像すると、かわいそうでたまらなくなる。
健康で利発で夢もあったのに、
必要な知識を得られなかったばっかりに、
命まで奪われて。
もう一人は仕事中、夜中の3時にかかってきた電話。
中絶の処置をしてくれる病院を探している女性。
中絶には可能な週数が決まっています。彼女は本当にギリギリでした。
うちの病院は初期しか扱わないことになったので、他を探してとしか言えませんでした。
彼女はうちにかける前も、かけた後も寝ないで病院を探していたのでしょう。
彼女の相手は?
一緒に探してくれていたのでしょうか?
いや…、そんな協力が出来るのなら、産もうという決断も出来うるでしょう。
おそらく一人で探していたのでしょう。
その決断になるにしても、なぜもっと早く出来なかったのか。週数が進むほど、身体に負担はかかり扱う病院は少なくなっていきます。
彼女は自分は生理が不順だったから、妊娠しないと思っていた。そして気がつくのも同じ理由で遅れた、と言っていました。
何を言いたいのか。
女の人は自分の身体をもっと知って、守ってほしい。「望まない妊娠」をしないために。
レイプという非合意の暴力もあるけれど、「望まない妊娠」のほとんどは合意の性行為です。
だけれども避妊に対して、相手まかせなことが多い。
妊娠を期待するカップルは別ですが、たいていのカップルにとって妊娠は「真昼の月」みたいな存在。
可能性はたしかに在るけれど、それよりも快楽や一体感、安心感みたいなものが太陽のようにまばゆくて、目がくらんでしまう。月の存在は忘れてしまう。
または忘れていたい。見えにくいものをわざわざ見たくない。
そして不意に現れた月におののく。
そして産めない、産まない決断をせざるを得ないとき
身体が傷つくのはだれですか?
あなたです。「おろす」というけれど、本当は生きようと張り付いているものを無理やり「引き剥がす」のです。
生きる力がなくて自ら剥がれてしまう・剥がしてしまう流産ですら、子宮には傷がつきます。無理に行うときにはよりそのリスクは高くなります。
いつかあなたが妊娠を望んだとき、その傷が妊娠を阻んでしまうこともあるのです。
そして産めない、産まないと決断せざるを得ないとき、誰の心が傷つきますか?
あなたの心です。
処置までの病院とのやり取りや、処置中の痛み、そして罪悪感、すべてあなたが受け止めないといけません。
相手は?
その身に宿すわけではなく、その身が傷つくわけではない。
処置する場にいざるをえないわけでもない。
「おまえも嫌がらなかっただろ?」と自らの罪悪感を転嫁する道がある。
婚姻していなければ、そのまま関係を断ち切れば「災難だった」と笑い話にする人すらいる。
この差はそうそう埋めるすべはみつからない…。
そして処置をせざるを得ないのなら、できるだけ安全な方法をとってほしい。
今はネットや口コミで売られている薬もあるけれど、危ないよ。強すぎたり、きちんと飲み方を守らないと中途半端で出血が止まらなかったりする。
それに妊娠反応が出ても、子宮内で妊娠しているとは限らないんだよ。子宮の近くだけれど、子宮でないところに卵がつくことがあるのよ。それが剥がれたらおなかの中で大量出血することもあるのよ。
「おろす」ことを安易に考えないで。
上記は発展途上国といわれる国の少女の話だったけれど、日本でも中絶によって命の危険にさらされる人はいます。
医療が発達しているから助かって表ざたにならないだけ。
口コミの方法でうまくいった人は幸運だっただけです。あなたも幸運に恵まれるとは限らない。
そして、「しょち」される命たち・・・。
本当に初期でなければ人の形になっています。
早い週数であれば、膣から細い器具を使って掻き出します。
身体がばらばらになってしまいます。
週数が進むにつれ、中絶不可能な時期に近づくほど、出産と同じように陣痛をおこします。胎児の頭が通るくらいに子宮の入り口を開かなければなりません。
産まないのに陣痛を味あわなければなりません。
出された胎児は必死に胸を動かしています。心臓が、肺が大きく動くのが見えます。
泣こうとする胎児すらいます。
開いた入り口の広さではスルリと出せずに、身体がきれてしまう子もいます。
処置を受けている人にはその姿は見せません。そっと引き上げます。その人を傷つけたいわけではないので。
でも私達は、その子の動きが止まるまで、見守るのです。みていなければならないのです。
私達は目の前の子の命を絶った共犯…そうしたいと望まずとも。
望んだ妊娠でも道半ばで死産する子もいます。
急に出されて生き残る術などないのに、あがいている命があります。
私達の病院では中絶する人(レイプなど非合意で行われた性行為の結果で妊娠した方にはしません。痛みもそういう場合は極力とります)にはその胎児用の箱を作って持ってきてもらいます。
そして私達がガーゼや綿で整えて箱に安置した後に対面してもらいます。パートナーも一緒に。そういう前提のもと中絶を受けています。
責めたいわけではないのです。
ただ、見なければ何をしたのか認識しないまま流れてしまう人もいます。
ちょっと麻酔で眠っているうちに終わっちゃった~。思ったより簡単だった~。
と思う人もいるのです。そうすると繰り返してしまう。
中絶というものと向き合ってもらい、それを消化して乗り越え、次の妊娠が望んだものであってほしいのです。
とはいえ、あまりにもスタッフにかかるストレスが強いので、幾度の話し合いの末に週数のいった中絶は受けないことになりました。
これを男の人が読んでいるのなら考えて。
自分の身には起こらないことでも、想像して考えてほしい。
将来あなたが愛する人がそういう心の傷を抱えているかもしれません。
あなたが過去にしてきたことかも知れません。
望まない妊娠をしても、それを産むべきだと強制は出来ないし、生まれて来る子がそれで幸せになるのか、というのはむずかしい。
もちろん、カップルの話し合いの末に産もう、という決断になることが願いではありますが。
中絶は日の目をみないことで、関係者でないと知らないことがほとんどです。
…だから書きたかった。内容が内容なので躊躇しましたが、書きたかったのです。
私が見取った子たちと、箱を抱いて泣いていた女の人のために。
出来るだけそういう思いをする人が少なくなるように。
気分を悪くさせてしまったらごめんなさいね。



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